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2016-03

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千日登攀:倉上慶大というクライマーと過ごした夜その2 - 2016.03.01 Tue

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photo: Satoru Hagiwara
改めて千日の瑠璃というルートを見てみる。全7ピッチの中で2、3、4ピッチがモアイフェイスを抜けるオリジナル部分でこの約120mに5.13c, 5.14a, 5.13dが連なっている。グレードだけ見ると今日のハードルートでは決して最難というレベルではないが、なぜこの3ピッチがすごいのか。。。なぜこの千日の瑠璃が日本のフリークライミング史に残るクライミングであるのか。 それはすでに皆さんご存知の通り、ここでは3ピッチを通してプロテクション用ボルトが1本も埋められることなく登られたからである。

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photo: Satoru Hagiwara
花崗岩のフェイスを登ったことのある者であれば容易に想像がつくと思うが、所謂花崗岩のフェイスというのはそれはそれはスッキリした岩である。瑞牆に行くと見えるこのモアイフェイスも「いや〜スッキリしたキレイな岩やなー」と見た者誰しもが思ってきたことだろう。そんなプロテクションを取る部分が非常に乏しいフェイスでスモールカム、ナッツ、スライダー、そして悪名高きガムテープ固定のスカイフックを駆使し、最大20mのランナウトをこなしてのクライミング。しかもそんなプロテクションからランナウトをした上で2段〜3段クラスのボルダームーヴをこなすという、高いクライミング能力と尋常ではない精神力が求められるルートである。

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photo: Satoru Hagiwara
当然落ちると非常に危険である。千日の瑠璃ではデシマルグレードの横にアルファベットで「PD」「R」「R/X」の表記があるが、これが危険度を示す。この表記は映画のペアレンタルガイダンスの記号から元々は来ている。映画でもPG13、R、X指定と内容のエグさによってお子ちゃまは見ちゃダメよ的な表記があるが、あれをクライミングの危険度を表す記号として使っているのだ。私はPDというのは知らなかったがおそらくこれがPG13に匹敵するもので、所謂ランナウトの始まりレベル。5〜6mはプロテクションが取れず、落ちれば怪我をする可能性が高まることを意味する。次のRは落ちた場合は骨折も含む大怪我をする可能性が高いレベル、そしてアダルトなXは死亡も含む重大な結果をもたらす可能性が含まれるランナウトという意味だ。 余談であるが実はXの上にもまだあって、確かイギリスのシークリフにAndy Pollitt達が開拓してたエリアにはXXやXXXというルートもあった。プロテクションが取れない上に岩が脆いという正にデスルート。次の日にレッドポイントしに行ったら壁ごと崩壊していたという逸話もある。(笑)

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photo: Satoru Hagiwara
千日の瑠璃に話を戻そう。クライマーだけでなく、墜落してきたクライマーがビレイヤーに激突し、ビレイヤーがただでは済まない可能性すらあるこのルート。なぜ倉上氏はこの岩にプロテクション用のボルトを打たなかったのか? 同じ瑞牆山にある他のエリアにはボルトルートは多数存在する。命の危険がある箇所だけでも打つことは選択肢としてあったはずである。スライドショーを通して彼はそのことを一生懸命、言葉を選びながら語ってくれた。

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photo: Satoru Hagiwara
瑞牆山のルート開拓の歴史も国内の他のエリア同様ボルトラダーによるエイドルートの開拓から始まり、70年代後期よりナチュラルプロテクションを用いたエイド、そして80年代初期からフリーへと移行していく。80年代後期はフェイスルートの時代が訪れ、その後90年代にかけてボルトをプロテクションとしたルートが多く開拓されるようになる。そんな流れの中で十一面岩はナチュラルプロテクションを用いるトラディショナルなルートエリアとして開拓されてきた。そしてここにはフリークライミングの原点的なルート「春うらら」がある。もともとエイドルートとして登られたものだが、80年代初期に戸田直樹氏によってフリー化(1P=11b,2P=12a)、その時にマスタースタイルを持ってして完登とする当時最高のスタイルを実践した。

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photo: Satoru Hagiwara
そんな十一面岩の正面壁にモアイフェイスはドカンと鎮座している。しかもそこを貫くルートは1本もなく。この大岩壁に魅せられた倉上氏はそこにルートを拓くにあたり「いかに登るか」を大いに悩んだという。ミニマムボルトの思想を持って開拓すれば問題にはならなかったであろう。しかしそれであればなぜモアイフェイスにルートが無いのか。既にカンマンボロンや大面岩といった広大な花崗岩フェイスには高難度ルートがボルトプロテクションによって開拓されてきているというのに。ただタイミング的なものなのかもしれないが、彼はそうは考えない。そこにルートが無いのは先人達が敢えてボルトによる開拓をしなかったからだと。クラシックルートである春うららの「スタイル」に拘った開拓から始まったこのエリアでの歴史を継承した自分の納得のいくスタイルでルートを引こうと心に決めるのである。とは言え、プロテクションが取れないでは話にならない。広大なフェイスに多くの時間と労力を費やしてその可能性を探る。そしてなんとか取れそうなことを確認したわけであるが、それは物凄いリスクを伴うランナウトになることは必然であった。これを最初はグランドアップでトライしようとも考えていたというのだから、相当高いイメージを持っていたことが伺える。

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photo: Satoru Hagiwara
彼は千日の瑠璃を開拓するにあたって、瑞牆山の開拓者を含む様々な人と直接話をし意見を聞いたという。その過程の中で先人達や先輩クライマーにとってのクライミングとは何か、そして自分のクライミングとは何かを考えに考え抜いてきたのだと思う。また彼は古い文献も読み漁り、開拓とは何か、ルートを初登することとは何かも模索し熟考している。クライミングという行為がただ登るだけのアクティビティではなく、自分自身で在ること、すなわち表現者としていかに登るかを相当な深さで求めていたように思う。また先人達の登りとその思いがあって、今の我々のクライミングがあり、そこに繋がりがあってこそ未来のクライマーへと何かを残していけるという考えもあったのではないだろうか。その結論が戸田氏と同じく「今出来る最高のスタイルでの完登」であるトラッドだったのだ。

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photo: Satoru Hagiwara
だからと言ってすんなり登れる代物では当然ない。命の危険が伴うスタイルなのだから。しかも彼はこれまで10年間のクライミング歴のほとんどをボルダリングに費やしてきた男なのだ。マルチピッチクライミングの経験も半年!千日登攀では貴重な動画も披露してくれたが、その中で実際2P目のトラバースの核心で大フォールをし骨折をしてしまう。それでも骨がつききらぬ内から岩に戻り出来る作業をし、腫れた足を無理矢理クライミングシューズに突っ込んでトライをする。異常なまでの登攀欲である。この激しいクライミングへの情熱という感情的な側面と、ランナウトという恐怖に直面しながらしっかり考えて行動する冷静さという側面、一見相反する心の動きがとんでもない次元で同居しているのだ。スライドショーの話を聞きながら、私は何が彼をそうさせているのだろうかと考え続けていた。そして分かったことは、この男は本当に一生懸命フェアで在ろうとしているということだ。

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photo: Satoru Hagiwara
これまでのクライミングを築いてきた先人達に対して、一緒に登ってきた仲間に対して、モアイフェイスが織りなす奇跡のラインに対して、倉上慶大というクライマーに対して、彼のクライミングを取り巻く全てのことに対しとことんフェアで在ろうとしている。クライミングにはスタイルこそあるにしろ、ルールはない。全てが自由なのだ。しかし自由であるが故に何でもアリにもなりがちである。節操の無い開拓、スティッククリップの乱用、ムーブ解決手段としてのムービー、チッピング等、周りを見渡せば嘆かわしい事だらけだ。しかしそれらは厳密にはルールは無いのだからルール違反ではない。だからこそクライミングには「フェアプレイ」の意識がとても重要であり、フェアで在る事でのみ本当の自由なクライミングが可能なのではないだろうか。

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photo: Satoru Hagiwara
あの夜会場で彼の話を直接聞けた皆さんは、それぞれ何か感じるものがあったと思う。その感じた事とは勿論このトンデモナイクライミングについてもあるだろうが、実際は自分自身のクライミングについてではないだろうか?自らを危険にさらすようなハードコアな登りをしろというのでは決してない。自分がフェアなクライミングをしているのかどうか、それを考える一つのきっかけになったのではないだろうか。それぞれがこれからの自分のクライミングにおいて、少しでもフェアで在ろうと意識し、出来ることから実践してもらえれば、良いクライミングの輪が拡がっていくと思う。そしてその輪こそがクライミング文化なのだ。この大切なものを引き継ぎ、実践し、次世代に手渡していきたい。個々の登りは全てつながっているのだ。

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